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千葉地方裁判所 昭和53年(ワ)440号 判決

原告

高桑貢

被告

椎名一吉

ほか八名

主文

一  被告らは各自原告に対し三二一三万二六七〇円及びこれに対する昭和五〇年六月一五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

(一)  被告らは各自原告に対し七一九八万五四円及びこれに対する昭和五〇年六月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  (一)につき仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  原告は左記事故(以下本件事故という)により後記傷害を受けた。

(一)  日時 昭和五〇年六月一四日午前零時四五分頃

(二)  場所 千葉市南町一丁目一一番地先

(三)  加害車両 普通乗用自動車(以下加害車という)

(四)  加害車両の運転者 被告椎名

(五)  被害者 原告

(六)  態様

被告椎名は右(一)の日時頃酒気を帯びアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で加害車を運転し、右(二)の地点の片側二車線の第二通行帯を千葉市鵜の森町方面から末広町方面に向い、制限速度を二〇キロメートルをこえる時速六〇キロメートルで進行していたが、前方注視、道路安全の確認を怠り、第一通行帯を同一方向に進行するタクシーを見て運転を継続したため、前方を左側から右側に向つて既に四・一メートル横断中の原告を、前方約八・八メートルに接近して助手席に同乗中の鳴海健二に大声で注意されてはじめて気付き、急制動措置をとつたが及ばず加害車前部中央付近を原告に衝突させ、原告に対し、顔面、頭部、胸部、その他全身打撲、額面、右肘、両下腿挫創、胸鎖関節脱臼、右肩胛骨々折、右上腕骨肘部脱臼骨折、両下腿開放性複雑骨折等の傷害を与えた。

二  責任原因

(一)  被告椎名は千葉市内に寿司店舗を数店経営する被告武井合名会社(以下被告会社という)に雇用される従業員であり、本件事故当時同社末広支店において調理師見習として勤務していた。

被告武井企一(以下企一という)は被告会社の代表社員、被告椎名を除くその余の被告らは同社の社員であり、このうち被告武井慶二(以下慶二という)は被告企一の息子で本件加害車の所有者であつた。

(二)  被告慶二は末広支店の責任者であるが、本件加害車のキーを店内の所定の位置に営業用にも店員誰もが同車を使用できるように置いていた。そして、同車は被告会社の仕入れ、出前、店員の見送り等被告会社の営業用に使用されていた。

(三)  本件事故の前日である昭和五〇年六月一三日午後九時頃被告会社本店総支配人塩野目源三が末広支店に見廻りに寄り飲酒したが、その際、被告椎名は同人のすすめにより日本酒約一合を飲んだ。次いで、塩野目は同店手伝い橋本某女、被告椎名、同店店員鳴海をスナツクに誘い、同被告はそこでもウイスキー水割二杯を飲んだ。そして、同月一四日午前零時一〇分頃塩野目の指示で右四名が加害車に同乗し、被告椎名が運転して、先ず塩野目を千葉市中央の被告会社本店へ、橋本を同市白旗の自宅へ送り届けた後、末広支店へ戻る途中本件事故を起こした。

(四)  そこで、被告椎名は民法七〇九条により、被告会社及び慶二は本件加害車の保有者として、同時に被告会社は民法七一五条により、その余の被告らは被告会社の社員として、本件事故により原告が被つた後記損害を賠償する義務がある。

三  損害

(一)  入通院慰藉料合計九七〇万円

1 入院日数が別紙一記載のとおり、九三一日(この間手術九回)であるから、入院慰藉料は八二〇万円が相当である。

2 通院日数が別紙一記載のとおり昭和五五年一月末現在六八〇日であるから通院慰藉料は一五〇万円が相当である。

(二)  逸失利益 六一四四万七五五六円

1 休業損害(本件事故後昭和五〇年六月一四日まで)三六九万四三六六円

原告は川崎製鉄株式会社千葉製鋼所(以下訴外会社という)に勤務していたが、本件事故による受傷のため同社から昭和五二年六月まで傷病手当として一七一万七九六一円を受給したに過ぎない。原告は昭和五三年四月症状固定と診断されたが、本件事故当日である昭和五〇年六月一四日以後昭和五三年三月の間本件事故に遭遇しなければ、別紙二記載のとおり賃金として合計五四一万二三二七円の支給を受け得たはずであるから、右傷病手当との差額三六九万四三六六円が右期間中の休業損害である。

2 後遺症状固定後の逸失利益 五七七五万三一九〇円

原告の症状は昭和五三年四月固定したが、その程度は障害等級五級にあたる。原告は本件事故により右上肢に運動障害を残し強い放散痛を感じており、症状固定後の経過から推してもその労働能力の喪失率は、右症状固定後少なくとも一〇年間は一〇〇パーセント、それ以後就労可能期間の末期まで七九パーセントとみるべきである。そこで、昭和五三年度の賃金センサス(産業計男子労働者高卒者)により、就労可能年齢を六七歳として、年五分の割合による新ホフマン式計算に基づき中間利息を控除して逸失利益を算出すると、昭和五三年四月から昭和六三年三月まで(二九歳から三八歳までの一〇年間)は労働能力喪失率一〇〇パーセントとして二二九三万二八五一円、昭和六三年四月から昭和九一年三月まで(三九歳から六七歳までの二九年間)は労働能力喪失率七九パーセントとして三四八二万三三九円、右合計五七七五万三一九〇円である。

(三)  後遺障害慰藉料 七二五万円

本件事故は昭和五〇年六月一四日発生したが、その直後である同年七月一日から自賠責保険の補償額の改定があつたから、改定後の五級の保険額九〇七万円を慰藉料算定にあたつても参考にすべきである。従つてその八割に相当する七二五万円が後遺障害慰藉料として相当である。

(四)  自賠責保険の受領 五九〇万円

原告は自賠責保険金として五九〇万円を受領した。

(五)  弁護士費用

前記(一)の入通院慰藉料、(二)の逸失利益、(三)の後遺障害慰藉料の合計七八三九万七五五六円から前記(四)の受領済自賠責保険金五九〇万円を控除した七二四九万七五五六円の一割に相当する七二四万円が弁護士費用として相当である。

(六)  以上(一)ないし(五)によれば、(一)、(二)、(三)の合計額から(四)の額を控除した七二四九万七五五六円に(五)の額を加えた七九七三万七五六六円が本件事故により被つた原告の損害である。

四  よつて、原告は被告らに対し各自右損害賠償金のうち七一九八万五四円及びこれに対する不法行為以後である昭和五〇年六月一五日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三(被告)請求原因の認否及び主張

一  請求原因一の(一)ないし(五)の事実は認める。同(六)の事実のうち原告主張の日時場所において被告椎名運転の加害車が原告に衝突し、その主張のような傷害を負つたことは認めるが、その余は不知。同二の(一)の事実は認める。同(二)の事実は否認する。同(三)の事実のうち被告椎名が加害車を運転していたこと、本件事故が発生したことは認め、その余の事実は否認する。同(四)は争う。同三の事実のうち(四)は認め、その余は否認する。同四は争う。

二  本件事故は被告椎名が私用により加害車を運転中に発生したものであるから、同被告及び加害車の保有者である被告慶二のみが損害賠償義務者である。

三  本件事故現場付近道路は幅員一一・一メートルで左右とも各二車線あり、被告椎名は右道路の中央側車線を千葉市鵜の森町方面から同市末広町方面に向け進行中、本件事故現場より約三〇メートル手前で同被告の進行左側車線前方を進行するタクシーがあり、同被告にとつては左前方を見通すことは困難であつた。また、本件事故の発生した午前零時四五分は道路の横断者を予想することができない時刻であつた。かかる状況下にあつて、原告は横断歩道でない本件事故現場を進行する自動車の動静にも注意せず、しかも酩酊状態で漫然横断したため本件事故が発生したから、右発生につき原告にも過失があつた。過失相殺は損害の公平な分配を目的とする裁量的なものであるから、直接加害者である被告椎名、同被告を雇用していた被告会社、直接の使用関係にあつた被告慶二、同社の代表者である被告企一、同社の社員に過ぎないその他の被告らとでは過失相殺の割合が異なつてしかるべきであるが、その過失割合は原告において八割を下ることがないものと認めるのが相当であり、この点は損害額算定にあたつて斟酌されるべきである。

四  原告は本件事故以前から欠勤が多く健康が良好ではなかつたから、原告の現症状がすべて本件事故に起因するか否かは疑わしいし、障害等級五級の認定にも客観性に欠けるものがある。また、原告のように勤務状態の悪い者が一般従業員同様の昇給の扱いを受けるとも限らないのである。

五  被告椎名は原告に対し入院慰藉料の一部として一七〇万円、治療費五四二万二〇五〇円を支払つたほか、川崎製鉄健康保険組合の求償に応じ同組合が原告に支払つた一五九万七九六一円を同組合に対し支払つた。

第四(原告)被告の主張に対する反論

一  原告は本件事故当時飲酒していたが、走行する加害車の前に急に飛出したのではない。従つて、原告の過失を基本二〇パーセント、加算要素五パーセントとし、被告椎名側に減算要素として、飲酒運転による重過失二〇パーセント、制限速度違反及び前方等不注視による過失一〇パーセント合計三〇パーセントがあるので、両者の加減算修正の結果相殺率は零となり、むしろ被告側に重い責任があることになるのであるから、被告の過失相殺の主張は理由がない。

二  第三の五の事実は認める。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因一の(一)ないし(五)の事実、同(六)のうち原告主張の日時場所において被告椎名運転の加害車が原告に衝突し、原告がその主張のような傷害を負つた事実、同二の(一)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二九ないし第三四号証、乙第一ないし第六号証、証人鳴海健三の証言、原告、被告椎名一吉、同武井慶二(一部)の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができ、この認定に反する被告武井慶二本人尋問の結果は採用することができない。

(一)  被告慶二は被告会社の社員として同社末広支店の責任者の地位にあつたが、同支店には、仕入れ、配達等の業務用として、被告会社所有の自動車二台がおかれていたほか、同被告所有の本件加害車もおかれていたが、同車は主として同被告の子供の幼稚園への送迎、同被告の妻の外出用に利用されていた。同被告はこれら三台の自動車のキーを同支店調理場の端の釘にかけ、従業員は業務上必要の都度これらのキーにより、主として被告会社所有の二台の自動車を運転していた。

(二)  被告椎名は昭和四四年四月被告会社に調理師見習として採用され本店において勤務した後、昭和四七年四月以降末広支店勤務となり、昭和四九年二月普通自動車の運転免許を取得した以後は、同社所有の自動車等により仕入れ、配達等の業務をも担当していた。

(三)  被告椎名は、昭和五〇年六月一四日午後九時頃支店見廻りのため来店した本店経理担当者塩野目源三から勧められて調理業務に従事しつつ約一・八デシリツトルの日本酒を飲酒した後、塩野目の発案で同人、同被告及び末広支店従業員鳴海健三、同橋本某女とスナツクへ行くこととなり、同日午後一一時二〇分頃、前記(一)のように調理場にあつたキーにより本件加害車を運転してスナツクに至りウイスキー水割り二杯を飲んだ。

(四)  被告椎名は、前記(三)による飲酒により呼気一リツトルにつき〇・二ミリグラム以上のアルコールを保有し、そのため正常な運転ができないおそれある状態に陥つていたのに、本件加害車に鳴海を助手席に同乗させて、スナツクから塩野目を被告会社本店へ、橋本を自宅に送つた後、末広支店に戻るべく通称末広新道と呼ばれている片側二車線、幅員一一・一メートルの舗装道路を南から北へ向け中央線寄り車線を時速約六〇キロメートル(法定制限速度四〇キロメートル)で運転して本件事故現場の手前約三五・五メートルの地点にさしかかつたところ、同方向に先行する左側車線内のタクシーがほぼ加害車と並列状態となつて停止したため、これに気を取られて一瞬前方注視を怠つたまま約二三・二メートル進行して事故現場より手前約一二・三メートルの地点に至つたとき、助手席に同乗していた鳴海に「あぶない」と声をかけられて、はじめて、前方を左から右に横断中の原告を発見し、急遽避譲及び制動の措置をとつたが間に合わず、加害車の左前部を原告に衝突させ、原告に対し前記のとおり請求原因一の(六)記載の傷害のほか歯冠破折の傷害を与えた。

二(一)  前記一に認定した事実によれば、本件事故は被告椎名が飲酒により注意力が減退しているのにかかわらず、法定制限速度を超過した速度で運転し、かつ前方注視を怠つた過失に起因することは明らかであるから、同被告は民法七〇九条により原告に対し損害賠償義務を負わなければならない。

(二)  前記一の(一)に認定した本件加害車の所有者である被告慶二の同車のキーの保管状況によれば、被告慶二は少なくとも末広支店従業員が本件加害車を運転使用することがあり得ることを容認していたものと認めることができるから、自賠法三条により原告に対し損害賠償義務を負わなければならない。

(三)  前記一の(一)に認定した事実によれば、被告慶二が本件加害車のキーの使用につきこれを禁じたものと認むべき証拠もない以上同被告も末広支店責任者として同車が従業員により被告会社の業務用に使用されることがあり得ることを容認していたものと認めざるを得ないし、また、前記一の(三)及び(四)に認定した事実によれば、被告椎名が支店見廻りに来た本店経理担当者塩野目及び勤務を終えた末広支店従業員橋本をそれぞれ本店及び自宅に送つた後末広支店へ戻る途中本件事故を惹起させたものであるということができる。かかる事実関係のもとでは本件事故は被告会社の業務執行につき発生したものというべきであるから、被告会社は民法七一五条一項により原告に対し損害賠償義務を負わなければならない。

(四)  右のように、被告会社が原告に対し損害賠償義務を負う以上被告椎名、同慶二、被告会社を除くその余の被告らも合名会社である同社の社員として(この事実は当事者間に争いがない)、原告に対し損害賠償義務を負う関係にある。

三  前掲乙第五号証及び原告本人尋問の結果(一部)によれば、原告は昭和五〇年六月一三日午後九時過頃から一人で飲食店二軒でビール五本を飲み酔いが廻つていたのに、更に他のスナツクへ赴くべく、末広新道の本件事故現場付近を横断中本件事故に遭遇したものであるが、事故に関しては、末広新道の方に向い同道路に面している千葉南警察署近くまで歩いたという記憶を有しているにとどまり、気が付いたときは病院のベツドであつたことが認められ(この認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない)、この事実によれば、原告は末広新道を横断しようとしたかどうかも、また、加害車と衝突したことすらも全く記憶していないものというべきであるから、原告は酩酊の余り、横断にあたつて自動車の進行については全く注意を払わず、従つて、加害車にも気付かないまま横断歩道でもない事故現場付近を横断したものと認めることができる。そして、前掲乙第一号証によれば、衝突地点が末広新道わきの歩道から四・二メートルしかへだたつていないことが認められ、この事実と前記一の(四)に認定した衝突に至るまでの加害車と原告の距離関係に照らせば、原告はいわゆる飛び出しに近い状態で横断を始めたものと認められる。かような原告の過失を斟酌すれば、後記逸失利益算定にあたりその三割を減ずるのが相当というべきである。なお、被告らは被告らの本件事故に対するかかわりの度合に応じて過失相殺の割合を異にすべき旨を主張するが、右主張は採用することができない。

四  そこで、本件事故により被つた原告の損害について検討する。

(一)  原本の存在及び成立につき争いのない甲第二ないし第九、第一二、成立に争いのない甲第一〇、第一一、第一五ないし第一七、第二一ないし第二四号証、第二五号証の一ないし二八、第二六、第三五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による受傷後別紙一記載のとおりその治療及び手術のため入通院をくり返し、昭和五三年四月の症状固定時における障害等級は低くとも五級に相当するが、特に右腕の後遺症が重く、各種の手術、機能回復訓練、温泉療法等にかかわらず神経叢麻痺が残り、事故後約四年半を経過した昭和五四年一二月八日現在においても、右鎖骨上窩より右手にいたる強い放散痛及び右上肢の運動障害のため就業不能の状態にある旨診断されており、この症状は本件口頭弁論が終結した昭和五五年四月七日時点においても同様であると認めることができる。

他方、被告椎名が本件事故後原告に対し入院慰藉料名下に一七〇万円、治療費として五四二万二〇五〇円を支払い、また、川崎製鉄健康保険組合の求償に応じ、同組合が原告に支払つた傷病手当のうち一五九万七九六一円を同組合に支払つたことは当事者間に争いがないところである。

(二)  慰藉料の算定 一〇〇〇万円

前記(一)に認定した原告の傷害の程度、入通院日数、手術回数、現症状、事故後における被告椎名の態度と前記三に認定した本件事故発生についての原告の過失等本件にあらわれた諸事情を勘案して慰藉料を算定すると、入院藉慰料は四〇〇万円(入院約三一か月)、通院慰藉料は一〇〇万円、後遺症慰藉料は五〇〇万円が相当であると認められる。

(三)  逸失利益の算定 二九四五万六三一円

1  本件事故後昭和五三年六月まで 五五一万五九九五円

前掲甲第二五号証の一ないし二八、成立に争いのない甲第一三、第一四号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故後訴外会社の就業規則の定めにより休職となつたが、昭和五三年六月一五日休職期間満了となり同社を解雇されたこと、原告が本件事故当日である昭和五〇年六月一四日から昭和五三年三月末日までに本件事故による受傷がなければ得ることが予想された賃金及び夏、冬の各賞与(以下想定賃金という)の額が別紙二記載のとおりであることが認められる。

原告は症状固定時直前である昭和五三年三月までの得べかりし賃金を休業損失として訴外会社の右想定賃金に基づき請求し、同年四月以降は昭和五三年度の賃金センサスにより請求するが、右に認定したように原告は同年六月一四日まで訴外会社に雇用されていたのであるから、右解雇の日が属する同年六月分までは訴外会社より得られたことが予想される賃金、即ち想定賃金に基づき損害を算定するのが相当である。また、原告は昭和五三年三月までの休業損失から右傷病手当を控除した残額をそのまま損害額に算入して請求していながら、その遅延損害金を本件事故の翌日である昭和五〇年六月一五日から請求しているから、右休業損失分についても、本件事故発生の日の属する昭和五〇年六月を基準時として、一年毎に、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除した額によるべきである。

ところで、原告が訴外会社の従業員であつた期間の想定賃金は直接には別紙二記載の昭和五三年三月分までしか明らかでないが、同年四月、五月、六月分の賃金及び六月に支給される夏賞与については別紙三(イ)の方法により算出するのが相当である。

かくて、原告が本件事故後訴外会社を解雇された日の属する昭和五三年六月までの想定賃金につき一年毎のライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して算出した昭和五〇年六月当時の現価額は別紙四記載のとおり五五一万五九九五円である(昭和五二年七月から昭和五三年六月までの想定賃金計算方法は別紙三(ロ)記載のとおり)。

2  昭和五三年七月から昭和九〇年六月まで 三六五五万六三三五円

原告が訴外会社を解雇された以後は原告主張のように基本的には資金センサスに依拠すべきであるが、昭和五三年度の賃金センサス(産業計男子労働者高卒者)による賃金が別紙二及び三記載の訴外会社の想定賃金より高いから、原告が訴外会社の従業員であつた最後の一年である昭和五二年七月から昭和五三年六月の間の想定賃金の合計額二一六万一〇二六円(昭和五三年六月当時原告は二八歳)の右賃金センサスによる二五歳から二九歳までの年額賃金二四六万七二〇〇円に対する比率〇・八八を右賃金センサスの各年齢層別賃金に乗じて得た金額を原告の得べかりし賃金とすべきである。そして、就労可能期間は本件事故後四〇年(従つて原告が訴外会社を解雇された後三七年)と認めるのが相当であり、また、前記(一)に認定したように原告は現在就業不能の状態にあるが、その年齢から推して自ら進んで右手の機能回復訓練更には左手の使用訓練に専念し、かつ努力することにより遅くも事故後一〇年(本件口頭弁論終結後約五年)を経過する昭和六〇年六月までには右就業不能状態は解消するものと予測し得るから、右時点までは労働能力喪失率を一〇〇パーセントとし、以後はこれを七九パーセントとして逸失利益を算定するのが相当である。かくて、右就労可能期間につき右得べかりし賃金に右労働能力喪失率を乗じて得た金額から前同様の方法により中間利息を控除して算出した本件事故発生の日の属する昭和五〇年六月当時の現価額は別紙五記載のとおり三六五五万六三三五円である。

なお、被告らは原告につき将来の昇給を考慮すべきでない旨主張するが、右主張は採用することができない。

3  過失相殺

前記三に述べたとおり、損害額算定につき原告の過失を三割斟酌すると、前記1及び2の金額を合算した四二〇七万二三三〇円の七割に相当する二九四五万六三一円が原告が本件事故により被つた損害としての逸失利益である。

(四)  前記のとおり、原告が自賠責保険金五九〇万円を受領し、被告椎名から本件事故による損害賠償として一七〇万円を受領したことは当事者間に争いがなく、前掲甲第二五号証の一ないし二八及び原告本人尋問の結果によれば、原告は訴外会社から傷病手当として一七一万七九六一円の支給を受けたことが認められ、原告は右手当を賠償額から控除して本訴の損害賠償請求をしている。

(五)  前記(二)の慰藉料一〇〇〇万円、(三)の逸失利益二九四五万六三一円合計三九四五万六三一円から前記(四)の合計九三一万七九六一円を控除した三〇一三万二六七〇円が原告が請求し得べき本件事故により被つた損害(弁護士費用を除く)である。

(六)  弁護士費用は前記損害額、本訴の事案に照らし二〇〇万円が相当である。

五  以上の次第であるから、原告の本訴請求は被告らに対し各自前記(五)(慰藉料及び逸失利益)と(六)(弁護士費用)を合算した三二一三万二六七〇円及びこれに対する本件事故後である昭和五〇年六月一五日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞)

別紙一

〈省略〉

別紙二 年・月別賃金想定額

〈省略〉

別紙三

(イ) 昭和53年4月、5月、6月の想定賃金計算方法

昭和52年1月、2月、3月の賃金合計額408,512円と

昭和53年1月、2月、3月の賃金合計額423,104円の

比率1.04を昭和52年4月、5月、6月の賃金及び夏賞与に乗じて、昭和53年4月、5月、6月及び夏季賞与として、それぞれ、151,774円、150,645円、150,807円及び224,536円を求める。

(ロ) 昭和52年7月から昭和53年6月までの想定賃金計算方法

昭和52年7月から昭和53年3月までの賃金及び昭和52年冬賞与に(イ)により求めた

昭和53年4月、5月、6月の賃金及び昭和53年夏賞与を加えた2,161,026円が求める昭和52年7月から昭和53年6月までの想定賃金である。

(注) 昭和52年7月から昭和53年3月までの想定賃金は甲20号証による。

別紙四 本件事故後昭和53年6月までの逸失利益の現価額

〈省略〉

別紙五 昭和53年7月から昭和90年6月(就労可能期間の末日)までの逸失利益の現価額(事故発生日昭和50年6月14日、原告の出生年月日昭和24年7月29日)

〈省略〉

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